アンデスの稜線に抱かれた国、ペルー。
この地はかつてインカ帝国の中心として栄えたが、コーヒーに関してはやや遅れて歩みを進めてきた国でもある。
ブラジルやコロンビアのように早くから輸出で名を広めたわけではなく、本格的に市場へ姿を現すのは20世紀に入ってからのことだった。
この“遅れ”には理由がある。
国土を縦断するアンデス山脈。その起伏は、コーヒーの生産地を必然的に山の斜面へと押し上げた。
平地に広がる大農園は成立しにくく、結果として小規模な家族経営の農園が主体となっていく。
さらに、この山岳地帯という条件は、生産の方法そのものにも制約を与える。
小規模農家が中心であるため、資金的に化学肥料や農薬を大量に投入する農業モデルが成立しにくい。加えて、物流コストの高さから資材の安定供給が難しい地域も少なくない。
資金面・流通面の両面から見ても、肥料や農薬を多く投入するような近代的な農業は、この土地では広がりにくかったのである。
意図してではなく、産地の構造として、この国のコーヒーは「過度に手を加えない」方向へと収束していった。
その帰結が、現在の市場で見られる姿だ。量販店の棚や外食チェーンのメニューに目を向けると、ペルー産の豆には有機栽培やオーガニックの表示が多い。それは偶然ではなく、こうした栽培条件の積み重ねが結果としてそれを“標準”にしてきたためである。
こうして形づくられたペルーのコーヒー栽培は、大量生産とは異なる価値観の上に成り立っている。
区画ごとに丁寧に手を入れ、無理に量を追わない。家族経営の農園は親から子へと受け継がれ、三代目、四代目という担い手も珍しくない。
受け継がれてきた時間そのものを磨き上げるように精度を積み重ね、その積層の中でペルーのコーヒーは評価を高めてきたのである。
ここまで“オーガニック大国”の話をしてきたが、肝心のこの一杯が有機栽培というわけではない。
少々肩透かしで恐縮だが、あくまでこの国のコーヒー生産を理解するための前提として、頭の片隅に置いていただければ幸いである。
今回のロットは、北部カハマルカ県、エクアドル国境に近い高地に位置するエル・セドロ農園のもの。
標高は2000〜2100m。昼夜の寒暖差が大きく、コーヒーチェリーはゆっくりと成熟していく。
品種はブルボン。
古い系統に属し、突出した個性よりも全体の均整に優れる。
精製はウォッシュト。
味の輪郭を整え、雑味を削ぎ落とす手法だ。
この豆を送り出したフェリペ氏は、モリト農園の第二世代にあたるコーヒー生産者である。
同農園は弊社でも扱ってきた馴染みのある存在であり、その営みを受け継ぎながら、自らの畑でコーヒーづくりを続けている。
親から子へと積み重ねられてきた時間の延長線上に、この一杯もまた位置している。
ミディアムハイロースト、中浅煎りで仕上げたこの一杯は、まず質感で印象を残す。濁りがない。
口に含むと滑らかに広がり、遅れて甘さが立ち上がる。
「華やか」でも「香ばしい」でもない。だが、飲み進めるほどに味の輪郭がくっきりと浮かび上がる。
派手さではなく、積層で語るコーヒー。
——滋味、という言葉が最も近い。






