「隣の村は外国」。
パプアニューギニアという国を表すなら、そんな言葉がよく似合います。
世界には、およそ7,000の言語が存在するといわれています。
そのうち、パプアニューギニアで話されている言語はおよそ840。世界にある言語の一割以上が、このひとつの国に集まっている計算です。
これは、一つの国で話されている言語の数としては世界最多です。
なぜ、これほど多くの言語が生まれたのか。
理由のひとつとして挙げられるのが、パプアニューギニア特有の地形です。
国土には険しい山脈や深い森林、川、湿地が広がり、集落と集落の間を容易に行き来できない地域が数多くあります。
小さな谷や山あいの村が周囲から隔てられ、それぞれの共同体のなかで言葉が変化し、独自の言語として受け継がれてきました。
また、人々が小規模な共同体に分かれて暮らし、村ごとの言葉や文化を、自分たちの結びつきを示すものとして守ってきたことも、その背景にあると考えられています。
山をひとつ越えれば、言葉が変わる。
川を一本隔てれば、習慣や伝承まで変わる。
国境線こそ引かれていませんが、隣の村は、まるで外国のような存在だったのでしょう。
そのため、この国には土地ごとに異なる物語があり、山や川、森や岩にも、それぞれの名前と伝承が残されています。
今回のコーヒーを生産したバロイダ農園の名も、そうした土地固有の物語から生まれました。
農園の近くを流れる川には、ひときわ大きな岩があります。
川が増水し、周囲の岩が押し流されても、その岩だけは長いあいだ同じ場所に残り続けてきた大岩。現地の人々は、その岩に「バロイダ」という精霊が宿っていると考えました。
やがて、その精霊の名が農園の名前にもなったのです。
今回ご紹介する「モリタ」は、そのバロイダ農園のなかにある区画の名前です。
栽培されているのは、アルーシャ種。
パプアニューギニアで育てられている、ティピカ種の突然変異種です。
焙煎度は中浅煎り。
口に含むと、まず感じられるのは、水分をたっぷりと含んだ果実を思わせる、みずみずしく穏やかな甘み。
そのあとから、角の取れた柔らかな酸味が、丸みのある輪郭を描きながら広がります。
甘みと酸味が互いを追い越すことなく、同じ速さで口のなかを進んでいく。
川の流れを受けながら、長いあいだその場所に残り続けてきたバロイダの岩。
柔らかな水に囲まれながらも、流されることのないその姿は、このコーヒーの味わいにも、どこか重なるように思えます。
800を超える言葉と、川の岩に宿る精霊。
その土地の物語に思いを馳せながら、味わっていただきたい一杯です。






